Marketing Reportマーケティングレポート

看護師の職務満足とその関係における研究

【要旨】

研究目的を『看護師の職務満足への影響要因は何か』と設定し、8施設1,796人の有効回答にて調査分析を実施した。10の説明変数における多変量解析の結果、看護師の職務満足に影響を与えている要因は、「給与・労働条件」「職場環境」「職業的地位」「看護管理」「当院勤務年数」の5つあることが明らかになった。

「給与・労働条件」では給与・休暇・福利厚生の改善と適切な労働量・人員配置,「職場環境」ではハード面だけでなく職員の連携やコミュニケーションなどのソフト面の改善、「職業的地位」では看護師として誇りを高める環境整備、「看護管理」では管理者が方針や目標を示し、適切な指導を行い教育の機会を提供すること、 「当院勤務年数」では職務満足の低い方の離職の可能性が高くなることからも平均勤務年数を伸ばしていくこと、これら5つそれぞれの重要性が明らかになった.

【キーワード】
看護師、職務満足、看護管理、職場環境、職業的地位、給与・労働条件

1. はじめに

産業界の職務満足全般に関する研究は、米国では1930年代から行われており、Hoppock.R[1935]は「職務満足を決定する要因は仕事だけでなく、家庭やその職業の社会的地位、また、その人の職業内での地位の高さが影響を与える」と述べています。
更に、職務満足の基礎的な理論として引用されるのが、Herzberg.F[1959]の「動機づけ-衛生理論」であり、「仕事における満足度は、承認や達成,昇進など満足に関する要因(動機づけ要因)と作業条件や対人関係、賃金など不満足に関する要因(衛生要因)に分かれる」という考え方です。職務満足は身体的・心理的・環境的要因が作用しており、心理学・経済学的な視座から様々な研究が行われています。

医療業界においては看護師に関する職務満足研究が多くみられます。
最初は米国において1940年にNahm(1)が「看護における職務満足」を発表しました。その後、1978年にStamps(2)らは医療従事者を対象にした職務満足を測定する質問票を開発し発表しました。日本では1988年にそのStampsの質問票を日本に向け応用した尾﨑(3)らの研究が始まりであり、2000年以降多くの研究が発表されています。2012年に平田(4)らは1983年~2010年までの病院看護職を対象とした職務満足度に関する研究をレビューし246件の研究があったと報告しています。

246件の研究テーマの類似性でグループ化すると「職務満足度の現状」「看護管理行動と課題」「組織環境の整備」「看護ケアの質保証」「キャリア支援・ワークライフバランス」「健康管理への支援」「尺度開発・検証」の7グループに分かれるとしています。また、職務満足度と「経験年数」に関する研究は9件あり、5件には正の相関がみられ、4件は相関関係がみられなかった、としています。職務満足度と「年齢」に関する研究は5件あり、3件には正の相関がみられ、2件は相関関係がみられなかった、としています。更に、職務満足度と「職位」に関する研究は8件あり、管理職の満足度が高いとしたのは3件だったとしています。それぞれの研究の中で職務満足度に最も影響を与える説明変数をポイント化した所「職業的地位」「看護師間相互の影響」「人間関係」が上位3要素としています。多くの研究を網羅的に調査しており、研究動向を概観できる点からも評価されます。

これらの先行研究を踏まえて、本研究の目的を『看護師の職務満足への影響要因は何か』とし、研究を進めていきます。

  • Nahm H. "Job Satisfaction in Nursing" American Journal of Nursing 40.12 (1940): 1389-1392
  • Stamps, Paula L., et al. "Measurement of work satisfaction among health professionals." Medical Care 16.4 (1978): 337-352.
  • 尾﨑フサ子. "看護婦の職務満足質問紙の研究: Stampsらの質問紙の日本での応用." 大阪府立看護短期大学紀要 10.1 (1988): 17-24.
  • 平田明美, and 勝山貴美子. "日本の病院看護師を対象とした職務満足度研究に関する文献検討." 横浜看護学雑誌 5.1 (2012): 15-22.

2. 研究方法

調査はみらいの看護部研究会の運営会社である株式会社メディネット(大阪府高槻市本社)が運営するサービスによって収集したデータを用います。データはサービス規約に基づいて研究目的として転用しています。このサービスの特性上、調査実施は病院に委ねられており、質問票の配布や回収方法など様々であり、厳密な方法とは言えないという側面はあります。しかしながら、病院側には調査結果を外部に公表するなどの調査結果を歪ませるインセンティブは無いと判断し、バイアスの無い回答であるとみなしています。サンプルは2014年5月21日~2014年11月28日の期間において収集され、8施設で有効回答数は1,796人となりました。

質問票の作成は株式会社メディネットにて実施しています。まずこれまでの多くの先行研究を参考にしながら質問項目を検討しました。また、各医療機関で既に実施されている質問票を入手し、各医療機関から意見を頂きながら加筆修正を行い完成されています。また、全ての医療機関に同じ質問票を使用して頂くことから、多くの医療機関に適合する共通の設問に絞り込まれています。始めに6項目の属性等(q1〜q6)を回答いただき、その後、37項目(q7〜q43)の設問に対して回答者は5点リカートスケール(非常に満足~不満)によって回答していただきました。

3. 結果

属性分布

質問票に回答して頂いた看護師の特徴を、性別・年齢・勤務形態・所属部署・勤続年数・婚姻の有無で見ていきます。

性別は女性93.1%、男性5.7%の結果となりました。年齢構成は21歳~25歳が最も多く21.1%、次に36歳~40歳の17.1%と続いています。

雇用形態は常勤看護師85.1%、非常勤看護師14.1%となりました。

外来と病棟の構成は、外来19.9%、病棟78.6%となりました。

勤続年数は5年以上10年未満が最も多く20.9%、次に1年以上3年未満の19.5%と続いています。

婚姻については既婚46.3%、未婚44.6%となりました。

属性分布

集計結果

ここからは、質問票の集計結果を見ていきます。
平均、標準偏差、中央値、n(有効回答数)、NA(無効回答数)を記載しています。

平均について、まず「Q36:この病院で働くことに満足していますか?」という総合評価は2.82となりました。また、満足度調査において、3.22と最も高い平均となった項目は「Q26:職場の人間関係や雰囲気に満足している」であり、反面2.33と最も低い平均となった項目は「Q8:現在の給与に満足している」というものでした。

回答者のばらつきを示す標準偏差については、「Q10:定年まで看護師の仕事を続けたい」が1.09と高い結果になりました。

集計結果

探索的因子分析結果

これからの分析方法としては、満足度調査の29の質問項目(Q7〜Q35)を探索的な因子分析を行うことで、看護師の職務満足に影響する要素を見つけていきます。まず29の質問項目について、平均値±標準偏差で天井効果あるいはフロア効果が見られないか確認し、全ての質問において問題は見られませんでした。

探索的因子分析の結果、5つの因子が抽出されました。
第一因子は6の項目で「職業的地位」に関する因子と考えることが出来ます。
第二因子は6の項目で「給与・労働条件」と考えることが出来ます。
第三因子は5の項目で「職場環境」に関する因子と考えることが出来ます。
第四因子は8の項目で「看護管理」に関する因子と考えることが出来ます。
第五因子は4の項目で「看護業務」に関する因子と考えることが出来ます。

これら5つの因子の内的整合性を確認するためα係数を算出したところ、0.786~0.870の範囲となり概ね良好な値が得られました。

探索的因子分析結果


それではこの5つの因子が看護師の職務満足度に影響を及ぼすのかどうか、多変量解析を行って証明していきます。

総合評価の「Q36:この病院で働くことに満足していますか?」を目的変数とし、上記の5つの因子「職業的地位」「給与・労働条件」「職場環境」「看護管理」「看護業務」、および、属性調査における「性別」「勤務形態」「所属部署」「勤続年数」「婚姻の有無」を説明変数とします。なお、変数は標準化(平均を0、分散を1にすること)した上で分析を行います。

分析結果は以下のとおりです。

分析結果

記載されている通り、モデルは全体として有効な結果となりました(F値=208.8、p<0.001、自由度調整済み決定係数=0.640)。

分析結果によれば、「給与・労働条件」「職場環境」「職業的地位」は、p<0.001の有意確率で、「看護管理」「当院勤務年数」はp<0.01の有意確率において統計上有意なプラスの影響が認められました。

分析結果

4. 結論

本研究の研究目的を『看護師の職務満足への影響要因は何か』と設定し、8施設で1,796人の有効回答数にて分析を行いました。まずは満足度調査の質問項目において探索的な因子分析を行い5つの要因を導きました。その後、属性調査項目の5つを加えて10の説明変数における多変量解析の結果、看護師の職務満足に影響を与えている要因は、「給与・労働条件」「職場環境」「職業的地位」「看護管理」「当院勤務年数」の5つあることが明らかになりました。

これから研究結果を受けて、看護管理者の視点で職務満足を高める方向性を検討してみます。
影響度の高い「給与・労働条件」では、給与・休暇・福利厚生の改善と適切な労働量・人員配置が重要であることがわかります。「職場環境」では、ハード面だけでなく職員の連携やコミュニケーションなどのソフト面の改善が重要になるでしょう。「職業的地位」では、看護師として誇りを高める環境整備を行うことが、「看護管理」では管理者が方針や目標を示し、適切な指導を行い、教育の機会を提供することが重要であることがわかります。「当院勤務年数」では、職務満足の低い方が離職の可能性が高くなることからも平均勤務年数を伸ばしていくことが重要です。看護管理者にとっては、これまで何度も耳にしたような当たり前の結果となりましたが、1,796名の看護師の皆さんの統計分析の研究結果であり、今後の皆様の取り組みにおける根拠に十分なり得ると考えます。

本研究結果が、「みらいの看護部」を創造するみなさまのお役に立てることを、みらいの看護部研究会として期待しています。

統計用語解説

  • 標準偏差
    平均を中心にどのくらいデータが散らばっているか示すもの。標準偏差の値が大きいと、データの散らばりの度合いが大きいことを示す。
  • 因子分析
    測定された多数の変数の相関関係に基づいて、直接測定できない潜在因子(因子:[factor])を見いだす手法。
  • 因子寄与度
    因子を構成する項目の増減が、全体をどのくらい押し上げたり、押し下げたりしているかを表すもの。
  • 因子寄与率
    寄与度を構成比で見た指標であり、全体での変化(増減)を100とした場合の各構成する項目の変化(増減)を百分率(%)で表したもの。
  • 累計因子寄与率
    因子寄与率を順次合計していった数値。
  • α係数
    信頼性の指標となる信頼性係数。α係数が0.8以上であれば因子の括りは整合性がとれていると見なされる。
  • 説明変数
    目的変数(総合満足度)を説明する変数のこと。物事の原因ととらえることもできる。
  • 標準偏回帰係数
    標準化(平均0、分散1)された、回帰分析(分析対象の変数を他の1つまたは複数の変数により説明し予測しようとする手法)において得られる回帰方程式(y=a₁x₁+ a₂x₂・・・anxn+b)の各説明変数の係数のこと。
  • 有意確率
    統計的仮説検定において、帰無仮説のもとで得られた検定統計量が実現する確率。有意確率がまえもって定めた有意水準(0.05や0.01など)より小さい場合に帰無仮説を棄却し、大きい場合に帰無仮説を採択する。
  • 決定係数R²
    寄与率とも呼ばれる。独立変数が従属変数のどれくらいを説明できるかを表す。この値が低いということは、得られた重回帰式の予測能力が低いことを意味する。